特集 NHK大河ドラマ『平清盛』海上ロケ
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「NHK大河ドラマの撮影が安浦で行われることになった」という話しが舞い込んできたのは,平成23年の春のことでした。
過去にも呉市内では映画・ドラマ・CM等が多数撮影されていたこともあり,失礼ながらも安易な気持ちで受け止めていました。
しかし,そんな気持ちが一変するまで時間はかかりませんでした。
「50作を超える大河史上,類を見ない瀬戸内の雄大さと清盛の躍進する姿を撮りたい」という撮影スタッフの熱意やスケールの大きさに感動を覚えました。
我々,安浦人と海で働く海人もそれに呼応するかの如く,日毎に毎日業務より,ロケに引き込まれたのでした。
ロケは9月初旬からでしたが,6月初旬から準備にとりかかりました。柏島のロケ地づくりや移動桟橋などの制作は困難を極め,日毎に体力が消耗しスタッフの体重は軒並み減少,気がつけばベルトの穴が2個縮んでいる?という方もいました。
今回のパネル展では,そんな撮影に至るまでの準備風景やロケ全体を支えた安浦人の熱い魂の活動についてご紹介を差し上げたいと思い,パネル展を催行するに至りました。
皆さん,是非,このパネル展をご覧いただき,ロケの裏側を支えた安浦の熱いひと夏を感じ取っていただければ幸いです。
安浦町まちづくり協議会
安浦漁協 若部海
安浦漁協 婦人部
※このパネル展(web版)は安浦市民センターに展示されていたパネル展をホームページ用にアレンジしたものです
準備編

早速,柏島の清掃活動に着手しものの,表面上は現代の漂着物(発泡スチロールなど)だけでしたが,少し掘り返してみると,長年の蓄積とみられる針金や漁具がたくさん埋まっており,メンバーは愕然する案件ばかりでした。
これでは,とても役者が素足で演技ができるような環境ではないため,まちづくり協議会や漁協(若部海)の面々は悩みながら作業をする毎日でした。

専門業者に聞いてみると,運搬費用だけでも数十万!? 海を職場とする漁協(若部海)のメンバーに相談すると,あっという間に解決! 重機を載せても十分な浮力があるようなイカダを作り,満潮を見計らっていざ柏島へ! イカダと浜の段差はパレットを階段状にセットし,上陸完了以後の作業はものすごく楽になりました。

当初は,「撮影に移り込まない隅の方にかためておこう」という話しでしたが,「せっかく撮影するんだし,この際だからきれにしよう」ということで安浦のカキ屋さんが集まって清掃活動をしていただきました。
おかげさまで,海浜には漁具やワイヤーの類は姿を消し,本格的な清掃活動が始動しました。
それにしても,カキ屋さんの行動力はあらためてすごい!と感じました。

参加団体は,まちづくり協議会をはじめ,漁協,商工会,消防団,自治会等の皆さんでした。
清掃活動を企画した安浦町まちづくり協議会は,「大河ドラマの撮影が一過性のイベントのようなものではなく,これをキッカケとして子々孫々まで語り継がれるような受入れをしたい」と意気込んでいました。
参加された町民からは,「この安浦(柏島)の風景がカメラを通してどのように映るのか楽しみ」とか「大河ドラマに少しでも関われて嬉しい」という暖かい声をいただいております。

仕上げの段階になり,海砂のようなキメの細かい砂粒を大量に敷き詰めました。 砂の搬入には,大型運搬船とホイールローダをチャーターし作業時間の短縮を計画!ホイールローダの大きさは写真では分かりにくいかもしれませんが,タイヤは直径2Mぐらいあるといえば分かりやすいかもしれませんね!
搬入された砂の量は約200㎥(10㌧トラック40台分程度)
約50㎡の敷地に高さ約40センチ程度の盛り砂をし,自然な浜を作り上げました。

NHK側の意向は「なるべく自然を残しつつ,平安時代の漁村を再現したい」というものでした。
限りなくその要望に応えたロケ地づくりはNHKスタッフからも絶賛され「これだけの事をしようと思うとお金や労力だけではなく,熱意がないとできませんね」という言葉をチーフプロデューサー(番組制作の最高責任者)からいただきました。
試行錯誤からはじまった柏島ロケ地は,こうして地域の皆さんの協力のもと完了しました!

パネルに映っている方々は安浦の方ばかりなので,皆さんのお知り合いの方もいらっしゃるかもしれませんね!
NHK側からの要望は「貧しい漁村民」という設定なので,体格の良すぎる方は…ということでした。
また,化粧も「汚し」という形で意図的に黒いどうらん(色の濃いファンデーションのようなもの)を塗っていますので,声を掛けられないと誰だか分からないという珍事が現場では起きていました。

皆さん,本当にお疲れさまでした。
延べ人数200名を超える方々の協力により,柏島でのロケが可能になりました。
頬をつたう汗は,柏島で活きていると思います。
NHKスタッフからも「今から放送が楽しみな映像が撮れました」と嬉しい言葉をいただいております。
撮影編

しかし,それでは作業にならない為,漁協(若部海)は桟橋を制作!
全長14M,全幅4Mの大きさで荷物の積み卸しが可能にするため,盤面はフラットになっています。
ここで,大きな誤算が…ロケが行われる柏島の浜は遠浅であるため,干潮時には船が入れない。また入るためには相当時間がかかってしまう。
これでは潮に合わせてロケを敢行しないといけないため,毎日のスケジュール調整がとても難しい。 若部海に新たな問題が降りかかってきました。

普段は,カキ屋さんが沖合での作業に使うために使用しているもので,今回はカメラ機材や監督ベースとして活躍したイカダです。
屋根がある部分には,俳優さんたちが休憩するスペースやカメラチェックをするモニターなど見慣れない機材ばかり。
それにしても,このイカダ…動力がないのにどうやって動かすのか?若部海メンバーに聞いてみると,数隻の伝馬船(船外機船)で押したり,引いたりするんだとか…その器用な操作にNHKスタッフも感心していました。
「毎日のことだから」とつぶやく若部海が印象的でした。

注目していただきたいポイントは,イカダ部分(通常は竹が格子状になっている)にコンパネ(板材)を敷き詰め,スタッフが自由に歩けるように工夫しているところです。
竹にコンパネを置いているだけでは不安定で危険なので,まずは垂木(角材)を敷き,その上にコンパネを…その数,数百本にもなったとか!
若部海が心配していた事は,落水しないような工夫です。
スタッフ・俳優・エキストラを含めると毎日約200名の人間が行き交う現場が洋上であるため,細心の注意が求められます。その甲斐あってか,演出上の落水は除き,不慮の落水者は一人もでることなく終了することができました。

大河ドラマはNHKの作品の中でも大きなウェイトを占めている番組のため,1シーンに4台のカメラがアングルを変えながら撮影するという気合いの入れ方!
音声マイクもあちこちから狙っていますが,アングルの違うカメラ4台があるため,マイクの位置もとても難しい様子。
技術(カメラ)の方に伺うと,「役者の一瞬の表情や額の汗等,リアルなところを突き詰めていくのがカメラ魂なんだよ」と言ってました。
4台のカメラのうち,1台でもNGだったら取り直しという苛酷な条件であるため,リハーサルを何回も繰り返していたのが忘れられません。

かきイカダ2台を連結し,その上を垂木・コンパネで養生することで人・資材の陸揚げを可能にするというものでした。
ちなみに,かきイカダの大きさは学校のプール(25M×15M)といいますから,それが2台連結ということは…
しかし,屋形同様,動力がないため何隻かの伝馬船で上手に操船することが条件でした。
まあ,そこは普段からイカダを曳航してるプロ軍団なので,安心して見ていることができました。
我々は,この移動桟橋を「メガフロート」と呼んでいました。

ロケ期間中は,グリーンピアせとうちの桟橋に係留・保管ということを検討していましたが,桟橋が鉄筋コンクリートであるため波や風の影響で船が傷つくことが判明。
急遽,係留用の桟橋を制作することになりました。
再び,若部海の出番がやってまいりました。
グリーンピアせとうちの桟橋から,沖合100M程度のところにアンカーを四方に打ち,しっかり固定。その後,イカダの外回りに緩衝材(フロート)を縛り,直接,大将船がイカダに接触しないような工夫を凝らしました。

NHK側からは,「船の船首部分で水中から勢いよく船に乗り込む忠盛の視線でカメラをまわしたい」というキテレツなものでした。
忠盛の視線ということは船の外からの撮影で,なおかつ,ローアングルからの撮影となります。
ということで,竹を格子状に組んだ上に垂木・コンパネを敷くというモノを作ることになりました。
通常だとフロート(発泡スチロール)を竹の下に入れるのですが,それでは,海面から高くなるということで竹だけの浮力で浮くモノを作ることにしました。

しかし,送り込む人数が多いと1隻の伝馬船(船外機)では時間のロスが多いため,常時,6隻の伝馬船がスタンバイ!
短時間でヒト・モノを効率的かつ安全に運ばないと撮影スケジュールが過密になるため,若部海は東奔西走の毎日!
本番中には,カメラマンを乗せてアングルのいいところで「キープ!」と言われるのですが,如何せんここは海の上!
波もあれば風もあるのでキープができない!?(悲)

ここで,若部海の1日を紹介しますね!
午前3~4時 撮影ポイントまで和船の移動・アンカー固定
午前6~7時 スタッフ・俳優・撮影機材をセットまで移送
※本番中は,撮影の補助,ドリンクの補給など
午後6~8時 撮影終了 スタッフ・俳優の移送,和船片付け
午後9~11時スタッフミーティング(翌日の確認事項など)
午前 0時 夕食
毎日,数時間の睡眠時間と炎天下での作業ということもあり,ロケ期間中でメンバーの体重も激減(悲)
午前6~7時 スタッフ・俳優・撮影機材をセットまで移送
※本番中は,撮影の補助,ドリンクの補給など
午後6~8時 撮影終了 スタッフ・俳優の移送,和船片付け
午後9~11時スタッフミーティング(翌日の確認事項など)
午前 0時 夕食

決して,ロケ弁が美味しくないという訳ではなく,撮影の緊張から開放され,仲間と団らんする一時でもあります。
そんな中,漁協婦人部からサプライズがありました!
スタッフ,俳優の皆さんに「手作り夏野菜カレー」を振る舞おうというものでした。
最終的な食数は,300食にものぼり米のキロ数は60㌔!
お手伝いには,漁協婦人部をはじめ,呉市からも応援部隊が駆けつけ,総勢60名による炊き出しは,皆さん笑顔の連続ばかりでした。
こうした,ほのぼのした関係っていいですよね!
撮影で使った船たち編

この船は2隻あり,洋上での撮影では大型和船を取り囲むようにフォーメーションが組まれます。
中型和船は全長,10Mの船ですが,船体の横に大きく張り出したところに人が乗ると船が大きく左右に傾くことが分かり,船体を安定させるため砂袋を船底に敷き詰める作業が必要となりました。

我々は,「中(ちゅう)くり」「小(こ)くり」と呼んでいました。
全長,7M前後の船でエキストラを乗せての演技が多かったのですが,安定感がないためバランスを崩すことが… しかし,洋上でのフォーメーションではなくてはならない存在でしたね!

我々は,「ジャンク船」と呼んでいました。 ジャンク船は,バージ(500㌧台船)に半分載っている状態のもので,洋上では,タグボートによる曳航により船が動いているように映し出すものです。
注目していただきたいポイントは,台船の表面が青く着色されていることです。
これは,台船の色が元々青色というものではなく,意図的に青く塗っていることです。
こうすることで,CG大河対応も可能になるんだとか!

船の船底が海面に着くように台船自体を低床にする必要がありました。 その為には,台船自体に水を大量に注入し,船底を下げています。
こうして疾走すると,本当に船が走っているようですよ!

台船の上は,必要最小限のスタッフしか乗せていません。
なぜなら,落水したときには,ジャンク船は大型であるため急には停止できないし,台船が起こす波によって落水者がどこまで流されるか予測不可能だから!
また,台船の前後をタグボートで曳航するため,タグボートに巻き込まれる可能性もあります。
撮影秘話編

実際に洋上で操船することはありませんが,艪を漕いでいる姿・姿勢がカメラに写り込むことを想定し,講習しているところです。
この講習はとても重要なことで,個人個人が思うがままに櫂を動かしていたのでは,これでは絵にならないんですね。
視聴者からは「それでホントにまっすぐ動くのか」といったクレームも入るんだそうです。

ところが,役者が3人程度乗ると思った以上に横揺れが激しく,カメラのフレームから役者がはみ出してしまうというアクシデント!
フレームを広げると役者の顔が小さくなるので,アップで撮りたいとのことでした。
とりあえず,波・風が穏やかになるまで,「しばし待ち」という海ならではの珍事がこの後起こりました。

すぐそばでは,漁村の船を表現するために漁網を船に装飾してる美術スタッフの活動風景です。
ちなみに,この船は先ほどまで平氏の軍団が使用していた船を代用しています。
ある時は平氏の軍団の船,ある時は漁村の船というシチュエーション毎に装飾を施し,観る者に分かりやすく伝えようと努力しています。

白い煙のようなものが見えると思いますが,これは,「スモーク」という特殊効果のひとつです。
これは,液体を霧状に噴出させることで光源や光のラインを見えやすくし,照明効果を高めるための機械です。
陸上の撮影なら,風上に廻り込み,噴出させればいいのですが,海の上では様子は一変!
小さな伝馬船で風上に廻るのですが,風の向きが一定とならないため,右往左往しながらスモークを焚き,カメラフレームのギリギリまで近づいてやっています。

船上での撮影は,船のバランスが崩れやすいため,左右に大きく傾斜する中での撮影となりました。
もしかしたら,落水者があるかもしれないという場面では,ダイバーがいつも船影に隠れてスタンバイしてるんですよ。
幸いなことに,不慮の落水者は1名もでなかったんですけどね!

海賊達は小舟で商船に向かうのですが,思うように進まないんですね! そこで,商船からロープを出し,寄りかかりながら進むことで真っ直ぐ向かっているような工夫を凝らしています。
「ロープがカメラに写り込むじゃないか?」という質問を受けそうですが,青色のロープを使っているのは理由があり,CGで消せる利点があるのです。
だから,洋上で和船を固定するアンカーも全て青色のロープを使用しているんですよ。
そういえば,この写真でも数多くの青ロープが見えます!